僕が好きな2014年下半期の音楽ランキング
基本的に下半期リリースの作品を選びましたが、あまり厳密ではありません。
それなりの作品数を聴いた一年でしたけど、聴けば聴くほどもっと色々な音楽を欲する感覚が強まっていきました。
と、その前に印象に残っているライヴ一覧。太字は特に素晴らしかったアクト。
・PASSPO☆ @渋谷AX
・Oneohtrix Point Never @代官山UNIT
・SIMI LAB @代官山UNIT
・GREENMACHiNE @新代田FEVER
・Knave @新大久保EARTHDOM
・NaS @StarFes.'14
・杏露虫 @新代田FEVER
・Taylor McFerrin @渋谷WWW
・isolate @渋谷eggman
・predia @新宿ReNY
30. First Album / tofubeats
ハウスからパラパラ、トラップからグライムまで様々なビートのフォーマットを咀嚼し出力してみせる後半部も巧みだけど、メロウなギターと共に新井ひとみのチャーミングな天才が軽やかに迸る「Come on Honey!」と、フロアの享楽とその前後にある日常の寂寞を藤井隆が体現した「ディスコの神様」の流れがたまらなく愛おしい。
29. Time To Die / Electric Wizard
重くくぐもった重低音がヘドロの様にゆっくりと波打つ、これぞEWと喝采したくなるザ・ドゥーム。歪み切ったノイズが音の輪郭を黒く塗り潰した音は2014年にあるまじきレヴェルで汚いが、無論このバンドにとっては美徳。
28. Elf In μ / Guardian Alien
ブルックリンを拠点に活動するドラマー、Greg Fox主催のプロジェクトによる、日本限定リリースのライヴ盤。拘束し視界を奪った人間の額に一定のリズムで水滴を落とし続け、過度の精神的負担で発狂に至らしめる拷問がありまして、これはそんな音楽です。異様なまでの正確さ(正確すぎるが故の異様さ)でトライバルなドラムが刻まれ続ける。それが苦痛なのかといえば無論逆で、脳と意識が徐々に啓かれていくトランス状態に持っていかれる。打ち込みなんじゃないかと疑いたくなるくらいに壮絶なドラミングなんですけど、実際に叩けないとこのリズムはそもそも発想出来ないんだろうなーという。
27. Salvadora Robot / Meridian Brothers
コロンビアのギタリストEblis Javier Alvarezによるプロジェクト。ラテンのビートに彩り豊かで溢れる音色、更には笑い声やら鳴き声やらが乗るサウンドは奇天烈ながら何とも楽しい。クンビアやサルサあたりのルーツ・ミュージックに、クラウト・ロック周辺のサイケデリアやジャズのグルーヴ、レゲトンの感性を交配させた、とでも言えばいいのだろうか。彼らを評してTropical Madnessの一言に纏めたGiles Petersonの気持ちはわかる。「Un Principe Miserable Y Malvado」を初めて聴いた時、アナログ・シンセの単音弾きが生むシンプルなリズムに乗っていたら、裏のパーカッションが全然違う拍子で打たれていることに気付かなくて、自分のリズム感に対する信頼が消失した。「イビサガール」で踊ってる場合じゃなかった。国内盤ボーナストラックはサイケのエッセンスだけ残して殆ど別物となっている「Purple Haze」カヴァーで、これの為に国内盤買う価値はあります。
26. Novos Mistérios / Ninos du Brasil
ハード・ミニマル・テクノにゴルジェの焦燥感とブラジリアン・サンバの祭儀性を持ち込んだ本能直結型のダンス・ミュージック。ポスト・パンク~インダストリアル~ノイズのリヴァイヴァル文脈的にも面白い作品で、レーベルはNYのノイズ・レーベル<Hospital Production>。アナログ的な音の質感も一役買っている。
25. Tyranny / Julian Casablancas + The Voidz
このアルバムにはポピュラーミュージックのエレメントの断片が過剰なまでに詰め込まれている。というより、過剰さ故にトラックから爪弾きにされるべき音ばかりを無理やりロックのフォーマットに押し込め直したような感触で、そこらのメタルやEDMより遥かに騒々しい。だから『Tyranny』にあるのはカオスでもサイケデリアでもなく、ジャンクだ。それでも彼のメロディ・センスは『Is This It』の頃から変わらず非凡で、結果として、瓦礫で建てられたカテドラルとでも言えそうな危ういイメージの一枚に。
24. Slow Waves / Submerse
12曲32分というコンパクトな尺もあって、今夏一番聴いたのが本作。ゆったりとした(時にJ. Dilla的な)ダウン・ビートと浮遊感のあるキラキラしたシンセ、情景を浮かび上がらせる声や環境音のサンプリングが、心地良いチルアウトをもたらしてくれる。
23. Cakez / Cenju
DOWN NORTH CAMP独特のいなたいノリはこの作品でも表出しているけど、ジャケットの通り、クルーの他の諸作に比べると明るく気さくな雰囲気が強い。中近東っぽい音で軽やかなトライバル・ビートを編んでみせたPUNPEEによる「imanimitero」から、O.I.と仙人掌を迎えた気怠いレゲエ・ライクな「夜の帳」の流れが良いですね。
22. ART OFFICIAL AGE / Prince
噎び泣く様なファルセットとサンプリングされたMila Jの吐息が絡む「U KNOW」や、流麗なシンセやピアノと乾いたリズムの中で声が際立つバラード「THIS COULD BE US」あたりを聴いていると、やったーおれたちの殿下だー!と嬉しくなります。これに6点台付けたPitchforkとは友人になれそうもありません。
21. You're Dead! / Flying Lotus
インプロヴィゼーションのクラッシュの瞬間だけを時間を圧縮して強引に繋いでみせたかのような怒涛の序盤から、穏やかながら夢遊病的な混乱を抱いた中盤(Angel Deradoorianをフィーチャーした「Sirent Song」にはThe Cinematic Orchestraの面影が)、無意識に切り込んでいくような終盤まで、息もつかせぬ40分の臨死体験。このイメージ喚起力は凄い。SFCのRPG『ミスティックアーク』を思い出しました。どの曲も1~2分の尺なんですけど、トラックによって体感時間がかなり異なるのも面白い。例外的に4分弱ある「Never Catch Me」では、FLビートを完璧に乗りこなしてみせるKendrick Lamarの化け物っぷりが楽しめます。
20. Illmatic XX / NaS
これ持ち出すのはズルいんですけど、StarFes.'14で観たステージがMCから所作まで含めてとてつもなく素晴らしかったので。
19. ∞ / Ferri
大傑作だったファースト『A Broken Carousel』 から3年ぶりの新作。エレクトロニカ然とした穏やかなビートは強迫観念的なドラムンベースへと変貌し、オーケストレーションは混乱とともに肥大化している。メガロマニアックなヴィジョンの描くフラジャイルな美しさ。
18. Xen / Arca
全編を支配する破壊的な音のテクスチャと美しさは蠱惑的だが、それだけでは説明のつかない、重力が異常をきたしたような、ある種の怖ろしさを覚える。児戯さながらのピアノの単調な打鍵がリズムの様に聴こえ、ドラムは時に音階的な配置を取る。多分『Xen』を真に支配しているのは、あらゆる音が渾然一体となって精製する不定形のビートだ。これと自分の身体に宿るリズムをシンクロさせようとすると、脚が地面から離れてしまうかのような感覚に襲われる。
17. World Peace Is None Of Your Buisiness / Morrissey
この人の厭世的なファック・アティチュードは本当いつまでも変わらない。というか老獪さを増している分だけ、手に負えない頑固オヤジという印象も強まってきていて、ますます厄介。 で、そんなMorrisseyだからこそ僕らは好きなわけで……。快復して、また日本来てくださいよ。
16. Let's Cry And Do Pushups At The Same Arm / Torn Hawk
Mark McGuireやManuel Göttschingを想起させるギター・エレクトロニカだが、彼らほど秘儀的ではない。Ulrich Schnaussの描く白昼夢の方が近い印象を受けたけど、あちらが立っているのが隔絶された奇妙な場所A Strangely Isolated Placeなら、Luke Wyattは泣きながら腕立てしようぜ、である。よりフィジカルというか爽快というか、健康的なインナー・トリップ。
15. tetola93 / tetola93
足利で2012年まで活動していたハードコアバンドのディスコグラフィで、これが恐ろしく出来がいい。1〜2分の楽曲が過半を占めるが、ブルータルな疾走感と強烈なブレイクが爆発し続ける刹那の合間に物哀しいメロディを聴かせるソングライティングは一級品。石川智晶「アンインストール」を、オリジナルのニュアンスを活かしたまま激情ハードコアとして翻案してみせたカヴァーも見事。
14. Soused / Scott Walker + Sunn O)))
エクストリームな存在同士の結節点がある種キャッチーなところに落ち着く、というのは珍しい話ではないにせよ、それでも『Soused』におけるScott Walkerはこれまでになくポップというか、親しみやすさがある。Sunn O)))のトレードマークである無限に引き伸ばされた遅効性のリフは控えめで、輪郭線の見えるディストーション・ギターとパーカッションが楽曲の骨組みとなっている(偶にギター・ソロまで鳴ったりする)。そこに大仰なバリトンが冴えるScottの歌が乗るのだから、結果としてゴシカルなロック・オペラといった趣。『Monoliths & Dimensions』に収録されていた暗黒のゴスペル・ドローン「Big Church」と比較するのも面白い。
13. THE PIER / くるり
凄いんだけどどこがどう凄いのかよくわからない作品その一。
12. Pom Pom / Ariel Pink
凄いんだけどどこがどう凄いのかよくわからない作品その二。
11. Agony / The Donor
金沢から届けられたヘヴィネスの極限値。ハードコア、メタル、ドゥーム、スラッジ、クラスト、ブラックとエクストリーム・サウンドの分化を束ねてしまった根源の音、とかそれくらい大それたな形容をしたくなります。漆黒のリフとブラストが拷問の如く続く中盤~終盤部からフューネラルに打ち鳴らされる「Shine」には、激情系の流れを汲んだ壮美なエモーショナルが立ち込めていて素晴らしい。
10. Black Messiah / D'Angelo & The Vanguard
「今年もD'AngeloとDr. Dre出なかったですね」という鉄板ネタがもう使えなくなってしまった。本来の予定より数ヶ月リリースを早めたのはファーガソンの事件に端を発する人種問題を受けてだろうし、ポピュラー・ミュージックは未だ真にポピュラーなメディア足り得るのだと勇気付けられる。何よりこの歌とグルーヴは5年後10年後まで聴き続けられると思わせてくれる出来なのが良かった。まあ、また14年待つのは嫌ですが。
9. Honeyblood / Honeyblood
轟音ギターに乗せて最高にキャッチーなメロディを女性二人でコーラスしまくる訳で、こんなの抗いようがない。ドラムの感触がグランジ的で、ギターはThe SmithsやRideの面影も感じる。グラスゴーの血脈だろうか。詞を読む限り、あまり恋愛にいい思い出がなさそう。
8. Perfect Animal / Becca Stevens Band
ベースとドラムに限らず、様々な楽器がポリリズミックに調和していくプログレッシヴな楽曲構造とか凄くハイスキルなんだけど、捻くれたリスナーなのでそれだけじゃああセンスいいっすねで終わるところ。でもBecca Stevensの透き通った歌が凄く良くて、結局愛聴盤になってしまった。因みに、今年聞いたCD音源の中で最も音質が良かったのがこれ。
7. Ruins / Grouper
今年特に聴いた女性シンガー作品はMarissa Nadler『July』、Sharon Van Etten『Are We There』、そしてこのGrouper『Ruins』だった。『Ruins』はほぼ全編ピアノによる弾き語り(無論多少のエディットはされている)だが、そのミニマルなつくりからはかけ離れて豊かなアンビエンスを聴かせてくれる。沈黙を音階に替えたような静謐なメロディと、さざ波のように反響するピアノが、幽かなノイズとともにベッドルームを満たしていく。彼女はThe Bugの最新作『Angels & Devils』に1曲参加しており、これも中々良い。
6. ヒビノコト / isolate
ツインギターによるトレモロリフのうねりが衝突し、息苦しいまでに密な音の結界を築いていく。方法論としてはこれまでの激情系のそれを踏襲しているが、音圧のブルータリティは殆どブラッケンドの領域にある。だからこそ彼らの武器である叙情的なメロディの映えが効いていて、本作のジャケットはそれをよく具現化している。
5. Aquarius / Tinashe
ウィスパーやファルセットを交えたコケティッシュでスムースなヴォーカルが官能的なシンガーで、それを引き立てるチルなプロデュースの方向性は前年のミックステープ『Black Water』から継続している。中でも白眉は冷たいシンセに沈んだビートの中で、AaliyahからSarah McLachlanまでを俯瞰するシルキーな歌声が玉響の如く揺蕩っている「Bet」。ラスト90秒では、サンプリングされたTinasheのスキャットの連鎖と、Dev Hynesによるリヴァーブ全開のギターソロが絡み合う。
4. Yacht Club / jjj
本作を聴くとjjjが稀代のトラックメイカーだと強く再認識出来る。サンプリングソースを自在にチョップしエレメントを重ねていく手腕はこれまで以上に研ぎ澄まされている。細かく差し込まれるネタの数は相当多く、時にけたたましいが、しかし耳障りではない。メロディで刻んでいくセンスが図抜けているからだろう。本人曰くサンプリングと音源の比率は6:4だそうで、結構メロディは書き足されているのかも。MONJUを迎えた「go get 'em」なんてポップと言って差し支えないくらいにカラフルで、そんなトラックとISSUGIのスモーキーなフロウが上手く調和する面白さ。リズムも洗練されている。例えばKid Fresinoとの「vaquero!」とFla$hBakS「Cowboy」は構成が近いが、音数を抑えてシンプルで遅めなビートの余白を作り、そこにラップをはめ込んでいく緩急が見て取れる。ACOのコーラスと和楽器をフィーチャーした「wakamatsu」の鮮やかさが最高。
3. 戒厳令 / Rinbjö
これ<第4期>SPANK HAPPY?『Vendôme, la sick Kaiseki』の後継作?というのが第一印象。アンニュイな声が囁くリーディング、片言の言語と話法が放つコミカルさ、多言語間の跳梁に滲み出す倒錯、エロ・グロ・ナンセンスを宝石と毛皮とアンティークのオートクチュールで着飾ったような世界観と、そこで解体されるジェンダー。かつてゴシック・テイストのディスコ・エレクトロ~ハウスとして鳴っていたトラックは、そのニュアンスを継承しながらよりディープなダーク・アンビエントやインダストリアルと混淆され、異形のヒップホップ・ビートを孕んだダンス・ミュージックとして新生している。その上で踊るのが、時に舌っ足らずで少女/少年の様な響きを発する菊地凛子の歌やラップなんだから、もう滅茶苦茶面白い。OMSBを迎えた「さよなら」なんて今年のベスト・ラヴ・ソングですよ。
2. Flower / Swarrrm
探求者Swarrrmはグラインド・コアを更新し、別次元に引き上げてしまった。彼らに付き纏う孤高のイメージは何よりこの音楽性に由来しているのがよく解る。グラインドをグラインド足らしめるブラスト・ビートの威力を骨格とし、強烈なアンサンブルが彩りを加えていく。これまでの作品を支えていた激情ハードコアやブラック・メタルの感性はそのままに、ポスト・ロックやシューゲイザー、インダストリアルやノイズ、更には歌モノロックのメロディまでを取り込んでいるが、どの要素もミックスとか折衷といった生ぬるいレヴェルには留まっておらず、エクストリーム・ミュージックを鳴らすためのバンドの血肉としてSwarrrmの音に消化されきっている。獰猛でありながら詩情を湛えたTsukasaの静かな咆哮とKapoの美しいアルペジオとノイズ塗れのブラストが交わる「幻」に圧倒されていると、「幸あれ」の信じ難い程にキャッチーなギターコードに唖然とさせられる。ネタでも何でもなくL'Arc~en~Cielかと思いましたよ。僕はラルク大好きなのでこれは賞賛ですけれど、でもそれくらいにメロディアスな展開(「魂握り締めて」もそういうテイストがある)が襲ってきて心底驚き、同時にグラインドやカオティックの表現領域が拡張されたと感動しました。名盤。
1. MONOCHROME / KOHH
何しても格好良いというスター取ったマリオみたいな無敵モードだった今年の顔役。数多の客演仕事でも軒並み輝いていた。MARIAと競演したDJ SOULJAH「aaight」、SMITH-CNとZEEBRAを従えたDJ RYOW「Turn Up」、般若とANARCHYそれぞれのソロ作への客演(二人を招いて制作された「Fuck Swag」Remixもパンチラインだらけの逸品!)は特に印象深い。Drake以降の、水に濡れたように流れるフロウは時に歌のように響き、完全に一芸として体得された感がある。ドープなアンビエンスが蠢くビートとの交感を聴いていると、ラップではトラックと声の音程の一致が重要だとZEEBRAが説いていたのを思い出す。捻りの効いた言い回しがあるわけでも、語彙に富んでいる訳でもないリリックの数々が、さながらストリートに飛散したガラスの破片の様に光を乱反射し、リスナーの抱えた様々な陰影を浮かび上がらせていく。