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第Q交響楽

映画とか音楽とか。

2013年フェイバリット・ディスク20選

他にも好きな作品は当然沢山あるんですけど、その中でも主要メディアで多く取り上げられているタイトルは基本的に外す方向で選びました。

秋の3ヶ月は延々アイドルのリリイベに付き合って同じCDを積みまくっていた為、その時期の作品は相当聴けていない感じです。ただでさえ狭く浅い聴き方してるというのにこんなんでいいのだろうか……。もうあんな不毛な戦いには参加したくないんですけど、まあ多分無理ですね。Believe in Yourself!

 

20. OVUM『Ascension』

ascension

5年ぶりの新作。オーバーダブをせず、ツインギター・ベース・ドラムというバンド編成そのままの音が鳴っている。マスロック的な複雑な曲構成が多いんだけど、無駄な音の配置は一切なく、各パートのスキルフルなプレイ(特にドラムはビートが複層してて何が何やら)が重厚なアンサンブルを織り成している。冒頭を飾る長尺の「the prayer anthem」は轟音を主体に叙情的な展開を魅せる曲で、マイナー系のコード進行が最後にメジャー系に切り替わる流れのカタルシスは白眉。

 

19. jizue『journal』

journal

京都発、ハードコアやジャズを経由したポスト・ロックバンドの3rd。当初からピアノを主体にしたメロディの美しさと、envyやMono等の轟音系ハードコアを踏襲したドラマチックな楽曲が魅力だったけど、そこは一切スポイルせずにジャズ由来のダンス的な側面を獲得。主題となるメロディをピアノとギターで変奏しながら進行し、ピアノとドラムによるミニマルな高速パートをギターのアルペジオが切り裂いた瞬間に全インストゥルメントが怒涛のグルーヴを形成する「rosso」が素晴らしい。

 

17. Full Of Hell『Rudiments of Mutilation』

Rudiments of Mutilation

メリーランドのブルータルでグラインドな人たちの2nd。<A389>よりリリース。10曲24分ってあたりがグラインド・マナーだけど、激重ブラストビートとハードコア直系の荒っぽいリフで楽曲をロールさせながらドゥーム/スラッジ的な展開を挟んでくるあたりの素養が他とは違う。

 

16. Dead In The Dirt『The Blind Hole』

Blind Hole

アトランタのグラインド〜パワーヴァイオレンス1stフル。<Southern Lord>より。ブラストビート・2ビート・D-Beatを使い分けながらブラック・メタル寄りの冷たく乾いたスラッシーなリフで刻みまくりツインヴォーカルがデス/グロウルでブルータルな絶叫。時にビートダウンやカオティックなコードを織り交ぜ、変化をつけながら24分をノンストップで爆走していく。時折表出するメロディの感性や重苦しいカタルシスは激情ハードコアやクラストにも通じている気がする。

 

15. Baptists『Bushcraft』

Bushcraft

バンクーバーのハードコアバンドの1stフル。こちらも<Southern Lord>。Converge直径のカオティック・ハードコアで、実際録音とミックスはConvergeのカートが手掛けている。楽曲がファストからドゥームまで縦横無尽に暴れる中で、様々なビートを手数の多いプレイで作ってくるリズム隊が吐くほど格好いい。ギターとベースのヘヴィ・ソリッドなリフがさながら重戦車の如き「Crutching Trails」から「Bushcraft」の流れが最高。

 

14. PRIMAL『Proletariat』

プロレタリアート

6年経てば人間変わるところもあるよなー。社会と家庭の中で生きる「自己」を暗闇の中で手探りで見つけようとする迷いに満ちたPRIMALのスタイルが好きだ。

 

13. Fla$hBackS『FL$8KS』

FL$8KS

各人のソロ作や客演の数々も光っていた。jjjによるトラックはソウルフルな華やかな上モノと力強くバウンシーなビートが融合していてとても心地いい。サンプリングの素材選びとそれを一捻り加えてエディットしていくユーモアのセンス。その在り方は90年代的だが、そもそも90年代生まれの彼らにとっては自然な身体感覚なんだろう。ソウルやジャズを主体に様々な方面からの影響が垣間見えるが、それをヒップホップのフィールドで咀嚼している。こののクロスオーバーのセンスもまた同時代的でクール。

 

12. Earl Sweatshirt『Doris』

Doris

OFWGKTAの天才による1st。かつてのPortisheadとも通じるトリッピー&ダビーなトラック群にアールの巧みなラップが乗っている。がなることもまくし立てることもせず、淡々と示唆に富んだ言葉を紡ぎ続けるアールはどことなくアースラ・ラッカーのようでもある。相当に複雑なリリックの読解だけであと半年潰せそう。

 

11. 灰野敬二『In The World』

IN THE WORLD

本人はDJプレイに際して「キリスト教の音楽とイスラム教の音楽を一緒にかける」ことを意識しているそうだけど、成る程確かにここではあらゆる音楽の断片がその背景に持つ意味を完全には喪失しないまま、一つの楽曲として再構成されている。なんじゃこりゃと思うような音もバンバン出てきてさながら秘境探検って感じだけど、そのどれもが揺れ動くビートの上で融和しているから恐ろしい。曼荼羅みたいだ。

 

10. Kanye West『Yeezus』

Yeezus

おれたちも神の境地に至るためクロワッサンを食べてダサいMVを観よう。

 

9. 未完成VS新世界『未完成の商業音楽』

未完成の商業音楽

2013年一番好きだったギター・ロックがこれ。オープニングを飾るタイトル・ナンバーからもう滅茶苦茶にいい。シンバルのカウントが耳をつんざくようなエッジの立ちまくったギターの爆音を呼び込んだ瞬間、一気に持って行かれる。カッティングやミュートを織り交ぜながら、メランコリーを湛えてかき鳴らされるギター。それを支えるように寄り添い、メロディを先導するベース。行間を埋めて行くドラム。そして題名を持たないラストトラック、何もかもを否定しながら「音楽」だけを歌っていくその切迫感。これを青臭いと鼻で笑うことは出来なくて、ロマンチシズムの在り方に胸を打たれる。

 

8. Church Of Misery『Thy Kingdom Scum』

Thy Kingdom Scum

我らがチャーチ、4年ぶりの4th。Black Sabbath直系のサイケデリック・ドゥームとオーセンティックな70's HRをブラッシュアップしきった最高のロックンロール・アルバム。特筆すべきは音の質感の良さで、歪んだり重かったり埃臭かったりダーティだったりする各パートのプレイのエッジを殺すことなくそのまま聴かせてくれる。それでいて高中低全ての音域のバランスが完璧に取れている。スロウだが一発一発が鉄槌の如きドラム、地を這いずり回り楽曲にドラッギーな艶を添えていくベース、強烈な音圧でキラーリフを連発しブルージーなソロでも魅せるギター、復帰したHidekiによる獰猛で殺意に満ちたシャウト。この各々がクリアに描写され、同時に全てが絡み合って形成される別次元のヘヴィ・グルーヴとして鳴り響く。7曲50分のどこを切り取ってもロックの格好良さに満ちている。 

 

7. ISSUGI from MONJU『EARR』

EARR

MONJU/SICK TEAM/DOWN NORTH CAMPでの活動で知られるISSUGIの3rdソロ。ドープという言葉が相応しいトラック群は16FLIPが手掛けている(本作のインスト版『EARR : FLIPSTRUMENTAL』もよい)。兎にも角にもトラックがいい。古いアナログの匂いを感じさせるサンプリングとエディット。トラック構成そのものはミニマル寄りだが、声ネタや上モノの配置でアートワークにもあるようなくすんだ色合いを付与している。時たまBudamunkが弾いているオルガンも効いている。その上を渉猟するISSUGIのスモーキーでビターなラップは、リリックシートの不在も相俟って、言葉単位での意味を散逸させていく。

 

6. Cult of Luna『Vertikal』『Vertikal Ⅱ』

Vertikal

ISISが『Panopticon』で切り拓いたハードコア/メタルのネクストステージをさらに拡張したCoLの6th及びその続編的なEP。ギターやキーボードがアンビエンスを感じさせるダークな美メロを奏でる中、曲にヘヴィネスを注入していくバッキングギターとリズム隊のスラッジなプレイ。このバランスがいい。アレンジの作り込みが実に繊細で緩急に富んでいるので飽きない。ダーク・エレクトロやダブステップの音を取り込みながら各パートが幾重にも音のレイヤーを重ねていき、最後にはドゥーミーなリフの乱舞からメロディを浮上させる19分の長尺「Vicarious Redemption」が宇宙論的な壮大さで最PROGRESSIVE高。ジャスティン・K・ブロードリックによる同曲の美しいリミックスが『Vertikal Ⅱ』に収録されていて、オリジナルの主題的なメロディをシンセで只管に反復させながらJesuライクなインダストリアル・ノイズのヴェールで彩っていく、これまた素敵な内容。こっち方面の音だと、Light Bearer『Silver Tongue』とThe Ocean『Pelagial』も良かった。

 

5. ACO『TRAD』

TRAD

装飾を剥ぎ取った楽器のアンサンブルはグランジ的なざらついた感触を生み出す。同時に録音そのものの良さと、それを最大限活かし各パートを艶やかな音響で聴かせるミキシング(ギターとエンジニアを担当した岩谷啓士郎の貢献はかなり大きい筈)がもたらす薫り高い品格。名盤『LUCK』で完成したこの二つのモードの調和がそのまま『TRAD』に引き継がれている。スティーヴ・アルビニの名前を思い出してもいいかもしれない。

『absolute ego』『material』という初期傑作からのカバーが4曲続く序盤がもう泣ける。オリジナルのひりひりとした歌唱やダビーな音像が、シンプルかつストレートなバンド・アンサンブルに昇華されている。声にも音にも一切の無駄がない。贅肉を削ぎ落としていったら骨格しか残らなかったけどその骨が滅茶苦茶太かった、みたいな。

 

4. MARIA『Detox』

Detox

SIMI LABの紅一点、MARIAの1st。処女作故の力みも感じられるが、その事が自身の生い立ちや内面といったナイーヴな部分をラップしていくこのアルバムのソウルを損ねているわけでは決してない。アブストラクトなトラックに気怠いラップが乗るラストの「Bon Voyage」、この最後でメロディに合わせ“I know love is the answer”と本作の実質的なテーマを歌い上げるMARIAが美しい。

 

3. Mazzy Star『Seasons Of Your Day』

Seasons of Your Day

17年ぶりとなるMazzy Starの最新作。ただ肝心要のホープ・サンドヴァル様はMy Bloody Valentine(『mbv』は良かった……が、『Loveless』のリマスターの方が聴いた回数は多い)のコルムと組んだHope Sandval & The Warm Invensionsで2枚の傑作をドロップしているので、久々という感じ余りはしない。旧作とやってることは変わってないし。

シューゲイザーからフィードバック・ノイズを取り払い、その残響だけが朝の森に立ち籠める霧のようにアルバム全体を覆っている。それが緩やかに重ねられたギターの音色やハーモニカとあいまって、アシッド・フォーク的なサイケデリアを演出していく。

しかし何と言ってもサンドヴァル様である。あの独特のコケティッシュでアンニュイな雰囲気を漂わせた年齢不詳の歌声。目が覚めてそれまで視ていた夢の内容を思い出そうとするけど記憶は曖昧で、やがて夢うつつの区別がつかなくなり、再び眠りに落ちる。週末の朝にしか許されないそんな陶酔の贅沢をもたらしてくれる、彼岸の歌声。

 

2. 大森靖子『絶対少女』『魔法が使えないなら死にたい』

絶対少女

ささくれとかかさぶたを見ると痛いのが想像できるのについ剥がしたくなる、という感覚は誰にでもあると思うけど、大森靖子の歌は私にとってそんな風に響く。社会という名の他人が要求する「清く」「正しく」「美しく」。そこに対し果たして自分はどうだったかなと相対化してみて、くだらないと思いながらも落ち込んで、カジュアルに鬱病の気分を味わう。わかっているけど見たくない、考えたくない……。社会と自己の両義性の中で欺瞞に塗れながら引き裂かれていく、というのは余りにも古典的なメロドラマ風だ。しかし大森はただ引き裂かれるのを良しとせず、境界線に立ち続け、自意識を容赦のない(そしてアイロニーに溢れた)言葉に換えて撃ち込んでくる。

カーネーションの直枝政広がプロデュースを手掛けた『絶対少女』は、『魔法が使えないなら死にたい』(因みにこちらのマスタリングは先に挙げたチャーチと同じく中村宗一郎だ)よりカラフルなポップ性を獲得している。リードナンバー「ミッドナイト清純異性交遊」は条件反射で(((さらうんど)))やパスピエの最新作との共振を予期してしまう程度にハイブリッドなポップスだ。だが煌めくシンセもキュートなウィスパーも或いはハーシュノイズのカーテンさえも、やがては大森の歌とギターの強度へと収斂していく。

Tokyo Idol Festival 2013初日夜、メインステージZepp Tokyoにギター一本を引っさげて登場した大森は弾き語りの絶唱であの場を支配した。彼女を初めて観る客が相当数を占めていたが、揶揄や罵倒も無く、誰もが息をひそめて歌に聴き入った。そして終わった瞬間に捧げられた爆発的な喝采と拍手。メロドラマの主人公は最終的に死ぬか爪弾きにされるしかないが、"ねえ知ってる?サブカルにすらなれない歌があるんだよ"と歌う大森靖子はそのクリシェを否定した。彼女は矛盾だらけの「少女」を矛盾だらけのまま『絶対少女』で賛美している。

 

1. Janelle Monae『The Electric Lady』

ジ・エレクトリック・レイディ(初回限定バリュー・プライス盤)

ジャネル・モネイ a.k.a. <シンディ・メイウェザー><ナンバー57821><ジ・アークアンドロイド>によるメトロポリス組曲第四章及び第五章、それがこの『The Electric Lady』だ。メトロポリス組曲は2719年のディストピアと現代をタイム・トラベルしながら、アンドロイドたちが禁じられた愛と自由を獲得していく姿を描いたコンセプチュアル・ワークス。このコンセプトにおけるレトロ・フューチャーな世界観や専門用語の数々は実に魅惑的で、これらを読解していく楽しさは、出来のいいサーガ(『ファイブスター物語』とかさ)を追いかける快楽に通じるだろう。

だが『The Electric Lady』が美しいのは、ソウル・ミュージックであるということーー本質的な意味でのポップネスを有していることにある。ジャネルが歌うのは個人の自由と尊厳を愛すること、そしてその普遍性だ。そんな歌をソウルやファンク、ヒップホップやR&Bの音に接続して届けてくる。ルーツ・ミュージックとしての黒人音楽が現代において孕んでいるものはメロディでありリズムであり、歴史である。本作で素晴らしい客演を披露しているプリンスやエリカ・バドゥがどんな作品を作り、どんな価値観を提示してきたのか?デヴ・ハインズ=Blood Orangeがプロデュースしたソランジュの作品はどうだった?ソランジュの姉のビヨンセは、そのパートナーのJay Zは?彼らが辿ってきた歴史は?彼らの鳴らしている音楽はどこから来てどうやって今に至っている?

或いはジャネルのスタイルに目を向けてもいい。彼女が纏うタキシードに、例えばイヴ・サンローランやココ・シャネルが引き起こした女性の解放とその歴史を視ることは容易だ。

作品を構成するあらゆるイコンにルーツがあり、過去と現在と未来を繋いでいる。それが越境的でソウルフルなポップスとして結実しており、ジャネルがマイノリティに向ける優しく強い眼差しに説得力を持たせている。