第Q交響楽

映画とか音楽とか。

僕が好きな2015年上半期のアルバムランキング

多分8割方Apple Musicで聴けます。

 

30. All Fours / Bosse-de-Nage

All Fours

秋にリリースされたDeafheaven『New Bermuda』は間違いなく傑作だったんですけど、プログレッシヴな仰々しさがやや気になったり。その点、数年前に連中とスプリットも出しているこのバンドの新作には、良くも悪くもハードコアの粗さが感じられて気に入った。愚直なまでのトレモロリフ連打が分厚い鋼鉄の扉をこじ開けていくカタルシスがある。

 

29. Modern Streets / Beat Spacek

Modern Streets [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRZN206)

Steve Spacekのソロ・プロジェクトで、彼の数多の仕事の中ではAfrica Hitech『93 Million Miles』からの流れが強いんじゃなかろうか。あのアルバムではグライムやダブステップの文法でダンスホール・レゲエを再解釈する様な試みがあった。『Modern Streets』でもベース・ミュージックを軸にミニマルに仕上げられたトラックが多く聴ける。大きく異なるのはヴォーカルの有無で、フラジャイルな色気を宿した声が全体にフューチャー・ソウルの薫りをもたらしている。アンビエンス・テックな「Compack n Sleep」のファルセットなんて何かもうエロい。

 

28. _genic / 安室奈美恵

_genic (CD+Blu-ray Disc)

おれが子供の頃から国民的アイドルやってた人が、年齢重ねても綺麗なまんまで、その上こんなエッジーな音楽やってスターの座に君臨してるのが何より最高。ヴィジョナリーな作品だけあってMVも軒並みハイエンドで、特に「NEW LOOK」の時代を引き上げてシークエンス・ショット一発で描いたような「Birthday」は最高にキュート。

 

27. Lantern / Hudson Mohawke

Lantern [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 初回盤のみシークレット・トラック追加収録&豪華特殊パッケージ仕様 / 国内盤] (BRC472)

蟲毒の壺の如きごった煮アルバム『Butter』から6年、色々あったしああ君も大人になったねという具合で大変洗練された2nd。煌めくレイヴィーな音使いのセンスも、ジャンルレスなサウンドメイクも相変わらずの冴えだけど、その制御の手腕が別人のように巧みになった。歓喜に満ちたラスト2曲「System」「Brand New World」は面目躍如の完璧なフロア・アンセム。

 

26. Paintings of Lights / 新川忠

Paintings of Lights

 シンプルなシンセ、ローファイな音像、余白の多い(≒スカスカな)リズム・アレンジ、みたいなニュアンスを纏めて押し込んだ「80'sっぽい音」という形容が頭の中にあるんですけど、このアルバムは本当に80'sっぽい。Back to 80'sというのはテーマとしてもあったようなのでそこは当然といえば当然ながら、同時代性が欠落しすぎてて、一周してタイムレスなイメージに至っている。タイトルや「カミーユ・クローデル」が象徴するように、西洋美術をモチーフとした作品なので、このイメージは意図されたものだろうか。繊細な歌とメロディはPrefub Sproutのようです。美しい。

 

25. Dark Red / Shlohmo

Dark Red

積層化されたデカダンな音の断片が無機質なビートに降り注いでいく。ラスト・トラック「Beams」の祝祭のダンス・ビートが、闇を打ち払う炎の如く響き渡った瞬間の開放感たるや。

 

24. セロファンの空 / 湯川潮音

セロファンの空

これまでのアンプラグドな作風から離れてカラフルな音像を描き出した本作を聴くと、湯川潮音とはやはりこの声と歌なのだと改めて思えます。清冽なヴォーカルが誘う白昼夢の小旅行。

 

 23. How Big, How Blue, How Beautiful / Florence & The Machine

How Big, How Blue, How Beautiful (Deluxe Edition)

サウンドにしろヴォーカルにしろ、これまでで最もドラマティックでポップ。わかりやすくなったとかシンプルになった訳ではなく、むしろ楽器のアンサンブルや音色の多彩さはより豊かで練られている。ゴスペルやブルースの感性もあり、アルバムに威厳を与えている。そして、それら全てを確信に満ちた歌が繋ぎ合わせていく。宗教歌みたいな勢いで昔の恋人への想いを歌われたりするので、説得力があると言うよりはパンチの強さで押し切られる感じだけど、それに身を任せたいと思わせるだけの魅力がある。

 

22. 仕事 / 入江陽

仕事

本作で達成された「東京のネオ・ソウル歌謡」とでも言いたいモードは、この後リリースされたbutajiとの共作による大傑作EP『探偵物語』で更に深化。(((さらうんど)))やceroの最新作と同様、トラックに対するフロウのアプローチが面白い。

 

21. + - / Mew

+ - (Deluxe)

キャリア最高作。氷の透徹さで構築された音色の中にドリーミーなポップネスが渦巻いていて、白夜のサウンドトラックといった趣がある。シルク・ヴェールさながらに折り重ねられたクリーントーンのギター、エアリーなシンセの音色が神秘的に映える10分尺の「Rows」が実にドラマティック。相変わらずジャケはダサい。

 

20. Ufinished Connection / dj honda & B.I.G. JOE

Unfinished Connection

北海道はtha BOSSと橋本奈々未とGOKU GREENと川本紗矢とdj hondaと東李苑とB.I.G. JOEを生んだ土地だから最高。今年一番のオーセンティック・ヒップホップ。

 

19. Fated / Nosaj Thing

Fated [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC465)

打ち寄せるシンセの中で浮遊感のあるヴォイス・サンプリングが泳ぐ。シンプルなビートに、十字路に立つ悪魔を想起させるChance The Rapperのウィスパーが身を寄せた「Cold Stares」の描き出す、荒涼としたモノクロームの風景が美しい。

 

18. Blue Avenue / 花澤香菜

Blue Avenue

ビッグバンド感のあるジャジーでアーバンなトラックと、クリスタル・ヴォイスの相性が最高。でも一番好きなのはAnanda Projectもかくやな流麗ハウス「ほほ笑みモード」かも。歌手としての花澤香菜の声の淀みなさは殆ど非現実的というかファンタジーの域に達しているけど、初音ミク程にヴァーチャルではなく、フィジカルな感触も備えているのが絶妙だと思う。花澤さんの実質的な声優デビュー作『ゼーガペイン』で彼女が演じたヒロイン、カミナギ・リョーコもそんな両義的なキャラクターだったこと、忘れないでくれよな。(古参面セレブラント

 

17. Paint En Pointe / Eugene Ward 

オーストラリアのTuff Shermが本名名義でリリースした、コンテンポラリー・ダンス用のサウンドトラックなんですけど、これがもうとんでもない傑作。音数を最小限に絞りつつ、現行ベース・ミュージックのパターンを様々に接合・展開させていく手腕に脱帽。ミュージック・コンクレートのメソッドも取り込んでいるし、全体としてコンセプチュアルな作品なのは間違いないのに、異様に聴きやすいのもヤバい。

 

16. The Epic / Kamasi Washington

The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

180分に及ぶ本作の再現は流石になりませんでしたが、BLUE NOTEでのライヴも野性的巧緻の極北といった感じで滅茶苦茶テンション上がった。あとこのジャケット、『まごころを、君に』で地球と黒き月の間に浮かぶエヴァ初号機っぽくないですか。 

 

15. Projections / Romare

Projections [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRZN218)

UKから放たれた、MoodymannやAndresを継承する優美で煙たいディープ・ハウス。そこにサンプリングで滑らかにパッチワークされたアフロ・アメリカン~ルーツ・アフリカンの匂い。Romareもそうですけど、Leon VynehallやJamie XXといったUK若手のハウスはヴァリエーション豊かでしかも滅茶苦茶洗練されているので楽しい。

 

14. Dark Energy / Jlin

Dark Energy [ボーナストラック収録+インタビュー付き]

 ハードで無機質的な音に、機関銃の弾丸の如く刻まれる三連符の脈動が血を通わせ、エロティックなダンス・ミュージックへと変貌させている。官能ではない、もっと抑圧的で本能的な衝動。ジューク~フットワークではあるんだけど、メタリックでマージナルなファンクとも取れる。Holly Herndon(『Platform』はいまいち響きませんでしたが……)が参加した「Expand」は、シンセとヴォイス・サンプリングとビートが三位一体のバランスで絡んでて特に好き。 

 

13. Think Good / OMSB

Think Good

 ビートのクオリティに関しては言わずもがなだし、パーソナルなリリックと一つ一つの言葉を語りかけるようなフロウは全体的に明るい印象で、聴いていて楽しい。己の現状も内面も受け入れ、肯定した上で次に進んでいこうとする意志が祝福のホーンに乗せられた表題曲が激エモ。 

 

12. Frozen Niagara Falls / Prurient

Frozen Niagara Falls

フローズン・ナイアガラ・フォールズ。音に出して読みたいタイトル。角川スニーカーやら富士見ファンタジアやらで育った人間なので、Diminik Fernowの中二マインドに突き刺さる言語センスはそれだけで愛情の対象になってしまうんですよね。Vatican ShadowとかRainforest Spirtual Enslavementとか、ドラグ・スレイブやカナルコード・エリア・ナイン的な響きの良さじゃないですか。ゴリゴリと抉ってくるノイズ~パワー・エレクトロニクスからゴシカルなフォーク、ダーク・アンビエント、冷徹に研ぎ澄まされたハーシュ・ノイズが嵐のように目まぐるしく吹き荒れる90分。 

 

11. 裏現 / COHOL

裏現 (りげん)

 神奈川の3ピースによる2ndで、冷徹な音作りの方向性はこれまでよりブラック・メタルに接近した。勿論、彼らが元から有していたハードコアやグラインドの破壊力は健在だし、ダーク・アンビエントシューゲイザー~ポスト・ブラック的なアトモスも宿っていて、独創的なエクストリーム・ブラックに仕上がっている。内面の膿を引きずり出し外部と対峙するような強い意志を持った歌詞も素晴らしい……のだが如何せん聴き取れないので、ちゃんとフィジカル買ってシートを読みましょう。ヘヴィな作品だけど、3曲目「暗君」の英題が「Chaos Ruler」なのには笑う。

 

10. EUPHORIA / EMI MARIA

EUPHORIA

熱を抑えた儚げな彼女の声は心地よく、ソウルネスはアトモスフェリックなビートに融け込んでいる。何かを喪失した者(或いはそれを埋め合わせようとする者)たちへのバラッドの様なリリックは、不可分なまでにメロディに縫い込まれている。全てにおいて過剰さがなく、まるで美しい一枚のタペストリのよう。

 

9. The Meridian Suite / Antonio Sanchez & Migration

Meridian Suite

一大バカテク・プログレ・ジャズ・サーガ。プレイヤーとしては勿論ですが、コンポーザーとしても気狂いじみて凄いよこの人。尋常でなく緻密に構成されているのは一聴で判るし、でもインプロ的な熱量も全く削がれていない。各パートのプレイもシビアでタイト。集中力と体力を要するけど、通して聴いた時のカタルシスは半端ない。

 

8. Sweet Talking / Bushmind

SWEET TALKING

良い意味でオーセンティックなヒップホップへの拘りはない人なんだろうなー。ジャケットからしてHawkwindモチーフだし。 ここで鳴っているのはストリートのサウンドトラックとしてのドリーミー・ヒップホップ。サイケやアシッドも取り入れられているけど、モロに定型的なフォルムで作るのではなく、エレメントをビートの中に消化しているのが上手い。DJとしての心の師匠がCarl Coxというのもわかる気がする。

 

7. THIRD SIDE OF TAPE / LIL UGLY MANE

かつてポップ・ミュージックだったものたちを計算高い乱雑さで継ぎ接ぎにした、エルンスト『百頭女』さながらのサウンド・コラージュ。エクスペリメンタル・ノイズがアブストラクト・ヒップホップに接続されたかと思いきや今度はシューゲイザーに、カントリーからインダストリアルにという感じで、昔DJ BAKUが作っていたフリーキーなミックステープ群を思い出して嬉しくなった。タイトル通り、合計6トラック約3時間の惑乱!

 

6. Obscure Ride / cero

Obscure Ride 【通常盤】

 ド頭から「completely  "eclectic replica" ocean」と宣言し、以降の流れを<セックスを剥奪されたブラック・ミュージック>とアイロニカルに捉えられるのを回避しているのが上手いというか何というか。『My Lost City』は躍動する音の連なりが無数のビル群を林立させていくイメージだったけど、『Obscure Ride』には<走馬灯を視ている自分を見る自分>のようなイメージ(『インターステラー』的な)を抱きます。本作のキーワードの一つ、ゴースト=オルタナティヴな個が立ち上がり、こちらの感情や記憶を揺さぶってくるような……。

 

5. Hariet / The DangerFeel Newbies

Hariet

 元々DJユニットだったアトランタの3人組で、その出自もあってか、アメリカン・ブラック・ミュージックを俯瞰するかのような多様性に富んだソウル作。90's NYのヒップホップを思わせるグルーヴ感と、Masters At Workの系譜にあるスムースなハウスが基調になっていて、全体に洗練された印象をもたらしている。特にそれぞれ日本盤ボーナス・トラックとなる「Dreams」やKai Alceのremixによる「What Am Here For?」はセクシーなジャジー・ハウスの逸品。このグループの名前とアルバム・タイトルは、19世紀アメリカの奴隷制度廃止運動家にして、絞首刑によるその死が南北戦争の遠因の一つとなったDangerfield Newbyと、その妻Harrietに由来しているそうで。そのコンセプトと、サウンド或いは人脈的(ニュージャズ~LAビート~ヒップホップ、加えてロンドン)な面も含めて、D'AngeloやKendrick Lamarの最新作に近いレヴェルの力作だと思います。

 

4. In Colour / Jamie XX

イン・カラー

深夜4時くらいのクラブで一人で踊るのが好きなんですよ。緩やかに場と音を共有しているんだけど突き詰めると孤独だよねという寂寞と、孤独なんだけど孤立ではない、みたいな安堵が綯い交ぜになるのが心地よくて。で、Jamie XXによるこの洗練されたディープ・ハウスは、深夜4時くらいのクラブをあっさり耳元に現出させてくれる。All Under One Roof Raving。

  

3. Rhythm & Sound / goat

Rhythm & Sound

ギター、ベース、サックスがいるにも関わらず、ほぼ音階は排除されている。弦のミュート音や破裂音、ノイズといったソリッドなサウンドと、千変万化するリズムの複雑系のうねりはどこまでもストイックで痺れる。人力の演奏が生み出す、クオンタイズに嵌らない揺らぎ。灰色の闇の中にその揺らぎを見出した時の、得も言われぬ冷たい高揚。Sunn O)))のドローンなんかとも通ずる感覚かも。

 

2. To Pimp A Butterfly / Kendrick Lamar

To Pimp a Butterfly

口承と記述によって継がれてきた「歴史」の、極めてモダンな結晶形。

 

1. Swift / Bill Laurance

Swift

最新作『Sylva』が傑作だったSnarky Puppyのキーボーディストによる、恐ろしいまでの完成度を誇るソロ作。美麗なピアノ・ジャズも絶品だが、ポスト・ロックとポスト・クラシカルのアプローチを取り入れつつ、複雑ながらもセンシュアルなダンス・ビートを抽出した「Red Sand」といったナンバーは尚の事良く、中でも表題曲「Swift」の構築美は圧巻。ピアノによる主題、荘厳な艶やかさを携えて切り込んでくる弦楽、幻夢的な和声、細かい反復を重ねる律動、そして全てが臨界に達した瞬間に何もかもを置き去りにして再び浮上する主題。これだけやって5分無いんですよ。Battles「SZ2」クラスの衝撃でした。酩酊しながら螺旋階段の上で踊っているかのような、危うい法悦の奔流を軽やかに味わえる1枚。