僕が好きな2016年上半期の音楽ランキング
Apple Musicのおかげで大量の作品を消化できたのだが、文字どおり消化という感じでそれぞれの音楽にしっかり向き合えなかったという反省もある。勿論これはサブスクがどうのフィジカルがどうのという話ではない。不労所得が年間1億円とかあれば家に引き篭もって大量の作品をじゃんじゃん聴き込むことが出来るので、根源的には労働が悪いという話です。
50. The Life of Pablo / Kanye West
TOYOMU - 印象III : なんとなく、パブロ (Imagining "The Life of Pablo")
TIDALはクソ。
ブエノスアイレスのバンドで、スペーシーでチープなアナログ・シンセをボッサやディスコのノリにハメていくのが大変心地いい。レトロでラウンジに寄ったStereolab。
前作に引き続き可憐なカヴァー集。「異邦人」が白眉。
47. Who Really Cares / TV Girl
こうまで洒落たブレイクビーツ・ポップもそうそう無いでしょう。
46. I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It / The 1975
君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。(言いたいだけ)
45. fam fam / never young beach
白い砂浜に揺れるハンモックにあっさりと誘ってくれるトロピカルなサイケ・フォーク。昨年の初作の延長線上にあるが、The Strokesとモータウンを引き合わせたかのような「明るい未来」のロック・グルーヴ、しなやかな強靭さは成長の賜でしょう。楽しい。
James Blakeの新譜がコレジャナイだった人はこれ聴いて溜飲下げて下さい。
43. Soul Long / IO
やたら豪華なプロデューサー陣や広告の投下も含めハイプ感凄かったけど、悔しいかな、そんな嫌味を言わせないクオリティを持った、メロウな秀作。
こんなタイトルですが、カサヴェテス的な神経症とは無縁の、聖歌とノイズが散りばめられた秘蹟の如き音の結晶体。<4AD>リリースに相応しいと言うべきか。
前作ほどにはささくれ立っていないけど、その分、楽曲の密度は上がっている。やっぱりこの掻き立てるようなメランコリックなギターは良い。
40. Funk Is The Final Frontier / LMT Connection
名ギタリストLeroy Emmanuel率いる、ホーン・セクションが輝かしいオーセンティック・ファンク・バンド。演奏の強度と説得力。
凶悪なビートダウン・スラッジで圧してきながら、シンガロング・コーラスやサウスっぽいノリでシャウトを挟んできたりするセンスが面白い。
38. Um Piano Nas Barricadas / Tiago Sousa
ポルトガルのコンポーザーによる、ピアノを主体としたモダン・クラシカル。宅録風のオーガニックなテクスチャや、"バリケードの中のピアノ"を意味するタイトルから何処と無く静謐なイメージを抱くが、端正さを保ちながら激情的な展開を魅せていくところに惹かれた。ピアノとフルート、ボンゴが高め合う中で、壊れた機械のように単調な鈴の音が反復する「Imprevisto No2」が艶めかしい。
作品毎にビートの方向性を変えてくる<Planet Mu>の名手ですが、いずれにも通底する、繊細なアンビエンスとイメージを喚起するサウンドスケープの構築力がこの人らしさじゃないでしょうか。
36. I Just Wanna Dance / Tiffany
初期の宇多田ヒカルを現代風にアップデートしたらこうなるかもしれない。レトロで彩ったフューチャリスティックなシンセ・ポップ。「Talk」が特に好き。
EDMの美点だけをかっさらってきたような、このハピネス(佐々木優佳里)に誰が抗えるのか?ビッグネーム周りの仕事でもその名を印象付けた旧名DJ Dodger Staduimのお二人。
34. Nosebleed Weekend / The Coathangers
活動10年目、アトランタの女性スリーピース。クラシカルなハードコア・スピリットとガレージ・サウンドを下地にしつつ、アイデアに富んだアレンジを要所で挟んでくるクールな姉ちゃんたちです。Black Lipsとのスプリットにも収録されていた「Watch Your Back」のブリッジ、全パートが頓狂な絡み方をしてて最高。
33. 2nd Time Around / Natasha Watts
Cool Million印のブギーなヴァイブスに乗せて、ザ・UKアーバン・ソウルと喝采したくなるしなやかなヴォーカルが煌めく逸品。
ジャケットを見た私「リリスだ!」
31. Weezer (White Album) / Weezer
根っからのWeezerオタクがプロデュースした結果、僕たちの好きなWeezerが帰って来ましたという感じの一枚。大人になんかなるな。でも、懐古趣味には陥らず、現代的なポップ・サウンドに寄せた上でWeezer的なクラシカルをやってるのが素晴らしいんですよ。
昨年末の紅白歌合戦、原爆ドームをバックに広島の空に捧げられた「オルフェンズの涙」は最高でしたが、その流れで年初にリリースされた本作もまた。その「オルフェンズの涙」と、続くアシッディな「真夜中のHIDE-AND-SEEK」で縦横無尽に冴え渡る鷺巣詩郎節がたまらない。
"エルメスを着たヒトラー"と嘯くNYのラッパーによる初作。タメの効いたフロウと二桁台のBPMの相性が抜群。The Alchemistプロデュースの殆どビートレスなトラックにAction Bronsonを迎えた「Dudley Boyz」なんかも絶妙。
28. SMILE / DOPEY
febbのアルバムに参加したあたりから気にしていたトラックメイカーですが、アルバム単位でここまでの世界観を描き出せる人だったとは正直予想以上。オープニングから続く「Everyone Knows」、そしてKid Fresinoを迎えた2曲に漂うノワール映画的な重厚さに喰らった。
27. Light Upon the Lake / Whitney
元Smith Westerns勢、Cullen Omori『New Misery』とこのWhitneyを聴いていると、おれたちのインディ・ロックはまだ終わっちゃいねえんだって気分になりますよね。そうか?
26. ANTI / Rihanna
全てを自らの制御下においた女帝が、メサイア・アイコニックな「American Oxgen」の後に放ったのが、この荒涼たる『ANTI』に縫い込まれたロウな手触りだったというのが彼女の凄みだと思います。通して聴くとTame Impala「NPSOM」のカヴァー(というかカラオケ)で泣きそうになる。
25. "BBF" Hosted By DJ Escrow / Babyfather
第75代英国首相がその名を汚名として歴史に刻んだ6月24日に聴いていたのは、The Smiths『The Queen Is Dead』とこれ。サイレンとノイズ、そして反復される"This Makes Me Proud To Be British"というテーゼがロンドンを焼き払う。
24. CRCK/LCKS / CRCK/LCKS
小田朋美、角田隆太、井上銘、小西遼、石若駿というジャズ界周辺の若きスター・プレイヤーたち(ファイブスター物語に例えるなら星団暦3075年ハスハント解放戦の聖導王朝連邦軍くらい豪華である)が最高のアヴァン・ポップを鳴らすバンド。そういう意味ではBecca Stevensを思い出しました。
王立音楽院出身、オーケストラのスコアを手がけたりPRADAのコレクションに楽曲を提供したりと、アカデミックからアート・コマーシャルまで余裕で跳梁する才媛が<Moshi Moshi>からドロップした、レーベルカラーに合ったキャッチーな初作。上等の香水がそうであるように、種々のエッセンスの持ち味を殺すことなく融和させ、全く新しい一を作り出している。本質の部分でポップ・ミュージック。
22. Pushin' / STUTS
PUNPEEを客演に迎えた「夜を使い果たして」が余りにも傑出している。街の情景に緩やかにフォーカスしながら漂流していくビートとフロウ。凡百のアーバン・ポップやストリート・ヒップホップの一切を駆逐する、完璧な描写力。
21. 深層 / ANCHOR
2016年新潟最大のトピックはAKB総選挙の開催地になったことですが(生きててすみません)、その裏で、新潟を拠点とするANCHORが結成17年目にして初のアルバムをリリースしました。チェンバロさながらに硬質なアルペジオと、吹き荒ぶ海風の如き轟音ギターのコントラストが叙情的で美しい。サウンド以上に、スタイルにおいてハードコアな一枚。
20. The Hope Six Demolition Project / PJ Harvey
政治と音楽を結びつけることが許されないディストピア国家クール・ジャパンでこういう作品を聴くのは、中々に『華氏351度』や『リベリオン』的な行為ですよね。そうでもない?そうですか。ラディカリズム全開の詩(特に「The Community of Hope」「River Anacostia」「Near the Memorials to Vietnam and Lincoln」あたりがヤバい)には戦慄せざるを得ないが、サウンド的には非常に取っつきやすい。
19. Zama City Making 35 / Hi'Spec
揺らぎのあるひねくれたポリなビートとエモーショナル展開の合わせ技が気持ち良い。イイ奴感がにじみ出ている。ビターチョコレートをまぶしたドーナッツ。ラスト、ブルースなんだか呪詛なんだか判らないK-BOMBの歌が激ドープ。
UKベース・ミュージックの先端を行くような、複雑なリズムと空間エフェクトをこなしつつも、余白を意識させるダブ的な感性が働いているところにデトロイト・テクノの色気を感じる。3Chairsとかあのへんですね。
サイケやドゥームにストーナー、ハードロックという手垢のついた、そして時に保守的なジャンル要素を、こうも新鮮に響かせてくれるバンドは他にいない。HR/HMの初期衝動はそのままに、練られたリフとダレるポイントが一切ない卓越したソングライティング、バンドの母国語であるノルウェー語によるシャウトが渾然一体となって叩きつけられる。前作に引き続き大傑作。
16. Rojus (Designed to Dance) / Leon Vynehall
ハウスを核として、そこから放射状に広がる豊潤なダンス・ミュージックのヴァリエーションを美しくコンパイルする才人が<Running Back>からリリースした2nd。トラック単位でもアルバム単位でも泣けるくらい良い。適度なレイヴ感を宿したガラージ「Beau Sovereign」、シンセのキラー・リフとヴォイス・サンプルが最高にアンセミックな「Blush」はもう電子ドラッグ。
出身地でもあるミネアポリス系のファンク〜R&Bをルーツに置きつつ、ファンタジックなプロダクションで魅せていく。ライヴだと、サウンドの中核を担うParisが5台の機材を操りながらビシバシコーラスキメてきて、レガシーとフューチャリズムの混淆を鮮やかに魅せてくれた。
14. A Moon Shaped Pool / Radiohead
『The Bends』『OK Computer』の次に好き。(懐古厨)
13. メロディーズ / 蓮沼執太
リリース当初以来久方ぶりに『CC OO』を聴き返したら、ここに繋がる音の断片が沢山転がっているように思えて面白かった。キュビスム的展開というか。
12. RAP PHENOMENON / Moe and ghosts x 空間現代
この国で"日本語ラップ"が何度目かのブームを迎えた本年、傑作と呼ぶに値するラップ・アルバムはいずれも「ラップとはあくまで技術に過ぎない」というスティーロを感じさせるものでした。空間現代のリズムを口語文語の半陰陽でハックしていくMoeの越境的ヒップホップはその最たるものでは。
11. カタルシス / SKY-HI
ブラック・ミュージックとJ-POPの文法を摺り寄せてここまでハイエンドな作品を仕上げてしまった日高光啓もまた、ボーダーラインを強烈に意識しそこを越えることに意義を見出すミュージシャンと言えます。どこ切っても大変なクオリティですが、KREVAによる高速ストリングスが印象的な「As a Sugar」がフェイヴァリット。シングルでは全然響かなかった「アイリスライト」も、流れの中で聴くと言葉の刺さり具合がまるで違って、アルバムというフォーマットの有用性を証明している。
エレクトロニカの文脈で捉えると、OPNとHudMoがプロデュースして割に随分とシンプルというか全体が捉えやすいつくりだと思うのだが、(Bjorkも言っていたように)彼/彼女による境界線上の歌を届けるにはこれくらいキャッチーな電子音の器が必要だったのだろう。引き裂かれながらも縒り合わされたあの声が"It's only 4 degrees"というシンプルな言葉を繰り返す時、粉々に砕けた陶器の残骸をただ眺めているような無常観にと原罪意識に襲われる。
めっちゃブリストルっぽい音だなーと思ったらブリストルの人だった。ヘヴィなマシン・ビート、ダブの質感が気に入って良く聴いた。
8. The Life Denied Me Your Love / Giorgio Tuma
Sparklehorseが継続していたら、こんなチェンバー・ロックを作っていたかもしれない。メランコリックな旋律を携えた様々な楽器が粉雪のように次々と立ち現れ、やがて微睡みの中に折りたたまれていく。
7. Lemonade / Beyonce
力強いプロテスト・ソングーー簒奪され制度化された<私>を如何に気高く奪還するのかという問いかけと、そのひとつのアンサーとしての、ハリウッド・クオリティで描かれたヴィデオが詰まったノウルズ姉のこの最高傑作がどれだけの名盤かは皆さんご存知でしょうから、ここでは50枚選抜から漏れたアンダーメンバーを記しておきます。気付いたら入れる場所が無くなってただけでいずれも素晴らしいです。Africans with Mainflames、Anderson. Paak、dvsn、Esperanza Spalding、EXO、Max Graef、Paul Simon、Savages、Snarky Puppy、KOHH、入江陽、王舟、小林うてなといったあたりです。
「チェリボム」「八月の夜」「スローモーニング」を何回聴いたことか。的確なリズムキープと要所のフィルで一気に最高速までギアを上げるドラム、音的にはファットでありながらメロディをリードする繊細なベースを中核とするアンサンブルは疑いようもなく一流だ。最大限の褒め言葉として「LUNA SEAみたい」と言いたいですね。甘ったるくも爽やかな歌声と多彩な韻をナチュラルに操り、耳と感情に突き刺さるグッド・メロディに乗せていくヴォーカル・すぅの才気も素晴らしい。プラチナム万歳。
5. Coloring Book / Chance the Rapper>
シカゴとそのクロニクルに捧げられたこの霊歌を聴くと、どこか穏やかな気分になる。「Same Drugs」なんて本当に最高じゃないですか。
4. sekien / sekien
つくづく解散が惜しまれる、播州赤穂が誇るジャパニーズ・ネオクラストの最初で最後のアルバム。強烈なD-Beatと粗野なベース、突進力がありながらフックも備えたリフ、どこを取っても最高のハードコア。アナログ感全開のダーティな音作りも絶妙なマッチング。
低体温の人力ダンス・ロックを構築するこのバンドが好きなのは、Jamie XX『In Colour』を愛聴したのと全く同じ理由で、ピークタイムを過ぎたクラブの寂寞感があるからだ。インターネット世代らしいというか、ジャンルを横断して様々な音楽の影響下にあるのが一聴して分かるが、それらをミニマルな痩身に削り落とし、一つの楽曲に織り込んでいくセンスは彼ら独自のものだろう。ライヴが音源以上にグルーヴィで、その印象も強い。
agraphらしい繊細なメロディラインは随所に登場するが、それは決して主題ではない。メロディを追っているとふとした瞬間にコードに変容していたり、コードがノイズ・グレインへと崩壊したり、全体を俯瞰して眺めていた筈なのにそれがディテールに過ぎなかったりと、ミクロコスモスとマクロコスモスが連続してコンバートされる驚きに襲われる。無数のレイヤーが織り成す音の超構造体。
1. ★ (Black Star) / David Bowie
ジギー・スターダストによる『幼年期の終わり』とでも言えばいいのだろうか。自身の死をシークレット・トラックとして用意した遺作であり、そんな作品が彼のキャリアで最も野心的で先鋭的なロック・アルバムになったことに深い感銘を受ける。『★』を聴くと、人類だったものたちの旅立ちを見届けながら滅んだジャン・ロドリクスではなく、閉塞に絶望しながら未来の可能性を見出そうとするオーヴァーロード・カレルレンのように生き続け、そこに辿り着かねばならないと思う。この漆黒の星は久遠の彼方に灯された篝火だ。